2013年04月

2013年04月06日

日本は・筏津裁判長の染まらぬ正義

【「1票の格差」で戦後初の選挙無効判決 筏津裁判長の染まらぬ正義】

毎日新聞 2013年04月05日 東京夕刊

岐阜地裁時代に筏津裁判長が現場検証を認めた長良川の船着き場。最高裁の勝訴確定後、渡し船の歴史を刻んだ石碑が近くに建てられ、ずさんな運営を続けてきた渡し船は廃止された。原告の寺町知正さんは感慨深げだ=浦松丈二撮影
拡大写真 ◇船着き場も現場検証
 「保守的な司法界でこれだけ勇気のある判決が聞けるとは」と原告側弁護士は言った。「可能性はあると思っていたが、まさか本当に出してくるとは」。政府関係者はそうため息をついた。選挙を無効とする−−。2012年衆院選の1票の格差をめぐる全国の裁判で、最高裁の警告を無視し続けた国会に司法の一撃が下された。3月25日、戦後初の選挙無効判決を言い渡したのは広島高裁の筏津(いかだづ)順子裁判長(62)だ。黒の法衣に包まれた人物像を探った。

 ◇キーワードは公平・熱意・誠実
 判決は小選挙区の区割りを違憲と判断し、広島1区と2区の選挙を無効とした。ただ、混乱回避のために猶予期間がある「将来効判決」を採用し、新たな区割り作業開始から1年となる今年11月26日を過ぎて、無効の効果が発生するとした。

 「法廷では素人の主張を一つ一つ丁寧に聞いてくれました。よく調べ、勝っても負けても納得のいく公平できめ細かな判決を書いてくれました」

 こう話すのは岐阜県山県(やまがた)市議の寺町知正さん(59)。1990年代から50件近くの行政訴訟を弁護士に頼まずに本人訴訟で争ってきた。筏津さんとは、岐阜地裁の裁判官と原告として04年から3年間にわたって毎月のようにラウンドテーブル(円卓法廷)で向かい合った。

 「裁判官もいろいろです。提出した書類の誤字脱字を叱責口調で指摘する人や、行政を訴える市民に偏見を持つ人もいました。要するに上から目線の人が多い。でも筏津さんは違った」

  ■

 運営実態のない渡し船に県から委託料が支払われている−−。長良川河口堰(ぜき)建設に反対していた寺町さんに匿名の告発があり、情報公開条例を使って調べた。県道の代替として渡し船を運営する同県海津市と渡船組合に委託費が毎年支払われていた。でも船着き場は荒れ放題、渡し船はボロボロ、船頭は何年も客を乗せたことがないという。

 寺町さんら住民10人は、海津市などに約2200万円を県に返還するよう求め、「船着き場を見れば、運営実態は一目瞭然」と現場検証を求めた。だが裁判官はなかなか首を縦に振らない。提訴から5年目、3人目の裁判官として筏津さんが着任した。

 「『それでは現場を見てみましょうか』と当然のように認めてくれました。数多くの訴訟を起こしてきましたが、現場検証が認められたのはこの一度だけです」

 結果は勝訴。その後、高裁、最高裁を経て10年6月に勝訴が確定した。地裁で筏津裁判長が認定した基本的な事実関係が上級審で覆されることはなかった。

「選挙無効判決のニュースをみてすぐ、ああ、あの人だと思いました」。中華航空機墜落事故(94年)の民事訴訟で、遺族側代理人を務めた海渡雄一弁護士(57)はそう話す。筏津さんは03年、名古屋地裁の裁判長として、中華航空に総額50億円余りの損害賠償を命じる判決を出した。

「遺族感情に配慮し、非常に熱心に和解を勧めてくれたのが印象に残っています。結局、判決を出すことになったのですが、あの一件は筏津さんの判決と努力で解決したようなものです」。解決を目指す筏津さんの「熱意」が印象に残った。

 筏津さんは3年前に那覇家庭裁判所長に就任した際、仕事観を問われて答えている。「裁判所が扱う事件は、必ず当事者がいて見解の対立がある。裁判所は双方の言い分をよく聞いて公正な立場で判断する立場にいる。まずは聞くところから誠実に対応しなければならない」(10年1月14日付・琉球新報)

 「公平」「熱意」「誠実」。筏津さんの仕事ぶりを表現する言葉だ。

 ◇女性差別がひどかった30期
 筏津さんは名古屋大学法学部を卒業し、大学院修士課程2年目の75年に司法試験に合格した。第1次石油ショック(73年)で高度成長が終わって「狂乱物価」や公害問題に日本社会が直面した時代。司法修習(30期)をスタートした76年4月には、最高裁大法廷で1票の格差をめぐる戦後初の違憲判決が出ている。それから37年。裁判所が選挙無効判決に踏み込むまでにかかった歳月は筏津さんの社会人生活とぴったり重なる。

 75年の司法試験合格者は男性436人に対し女性は36人で、全体の7・6%。2年間の司法修習を終えて78年に裁判官に任官した女性は筏津さんを含めわずか6人だ。当時の最高裁には、はっきり言って問題があった。

 「裁判官になろう、弁護士になろうなどと思わず、世間によく評価される奥さんになることが女性の一番の幸せだ。日本民族の血を受け継ぐということは重要なことだとは思いませんか」。発言の主は30期を担当した最高裁司法研修所の教官だ。見学旅行の車中で、女性3人をひとりずつ呼び、30分前後をかけて説得したという。

 別の教官はソフトボール大会後の懇親会で「女子修習生は研修が終わったら、家庭に入って2年間の研修で得た能力をくさらせるのが女として最も幸福だ。2年間が終わったら、結婚して家庭に入ってしまいなさい」と発言したといわれる。当時、これらの発言について日本女性法律家協会が抗議声明を出している。

 同期で東京経済大学教授の村千鶴子弁護士が証言する。「30期は女性差別が一番ひどかったんです。私は実務修習が名古屋で筏津さんと一緒でしたが、彼女の評価は高かった。あの時代にあって、彼女は男女の性別を超えて評価されるほど優秀だったのです」。やはりただものではなかったようだ。

 修習中は外泊も許可が必要。そんな窮屈な環境でも筏津さんはのびのびしていた。休日には大学院の同窓で将来の夫となる安恕(やすひろ)さんと一緒にスキーに。その後、安恕さんは母校の教授になり、筏津さんは裁判官として全国を転々。05年に安恕さんが55歳で亡くなるまで年1度のヨーロッパ旅行を趣味にする仲の良い夫婦だった。

 研修所で同じクラスだった鴨田哲郎弁護士は「彼女は真面目でおとなしい人でした。話をしたことはなかったと思います。もっとも私は青法協で活動し、周囲にちょっと警戒されていましたが」と苦笑いする。青法協(青年法律家協会)とは、54年に護憲と平和・民主、人権を掲げて設立された若手法律家たちの組織。司法研修所の官僚体質に極めて批判的だった。

 「彼女は裁判官になってから骨のある判決を結構出してね。こんな芯のある人だったんだ、と後から印象を持ちました」と鴨田さんはいう。若いころの彼女を知る男性の多くが同じような感想を語る。長尾龍一東大名誉教授(法哲学)は「新婚のころ、ご主人と一緒に名古屋で食事をしました。おとなしい感じの方だった気がします。あんな豪胆な判決を出す方だとは」と驚く。

  ■

 昨年の衆院選をめぐる選挙無効の全国訴訟は14高裁・高裁支部で計16件の判断が出そろった。「違憲状態」が2件、「違憲・有効」が12件で、広島高裁と同高裁岡山支部の2件が「違憲・無効」だった。一般市民からはむしろ当然にも思える「無効」の判断だが、冒頭に紹介した原告側弁護士の「勇気ある判決」発言に見られるように、横並びの裁判所の体質を知る専門家からは驚きをもって受け止められている。「変わった裁判官だ」「女性のスタンドプレーでは」。そんな批判も報じられた。一方、「将来効判決」を絶妙のバランス感覚と評価する声は多い。

 同期の村弁護士は言う。「慎重な筏津さんですら、選挙無効の判断をせざるをえないほど問題が深刻になっていた、と重く受け止めるべきだと思います。それに判決は3人の裁判官の合議。女性だからとか、スタンドプレーとか、そういうふうに受け止めたら時代を見誤ってしまいます」

 そして、こう続けた。「違憲判決が少ないと言われる日本の裁判所にあって、裁判官として、現状に対して法的な正義を慎重に検討した上の誠実な結論だったのではないでしょうか」

 裁判官が着る黒い法衣は独立して職権を行う裁判官の象徴だ。黒は何色にも染まらないから。染まらずに生きる、裁判官の正義が勇気ある判決につながった。【浦松丈二、小国綾子】

 ◇筏津順子さんの略歴
愛知県豊田市出身。

76年 司法修習生(30期)

78年 京都地裁判事補

88年 津地・家裁判事

92年 名古屋地・簡裁判事

97年 東京高裁判事

99年 名古屋地裁部総括判事

04年 岐阜地・家裁部総括判事

10年 那覇家裁所長

11年 広島高裁部総括判事

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1票の格差:「違憲」16件中14件 最高裁、統一判断へ
毎日新聞 2013年03月27日

「1票の格差」が最大2.43倍だった昨年12月の衆院選を巡り、二つの弁護士グループが選挙無効を訴えた訴訟の判決で、仙台高裁秋田支部(久我泰博裁判長)は27日、小選挙区の区割りを違憲と判断した。全国14高裁・支部に起こされた訴訟16件の判決がこれで出そろい、1票の格差を理由にした戦後初の無効判決は25日の広島高裁、26日の同高裁岡山支部の2件だった。

 無効の2件以外は、違憲判決が秋田支部を含め12件(東京2件▽札幌▽仙台▽名古屋・金沢支部▽高松▽大阪▽広島▽同・松江支部▽福岡・宮崎支部▽同・那覇支部)、「違憲状態」判決が2件(名古屋と福岡)−−で、いずれも選挙は有効とした。格差を合憲とした判決はなかった。

 16件で計31選挙区が訴訟対象となっていた。敗訴した原告側や、広島・岡山両県選挙管理委員会はいずれも上告する見通しで、最高裁が年内にも統一判断を示すとみられる。

 秋田支部判決は、最高裁判決(11年3月)が違憲状態とした前回09年選挙の区割り見直しを巡る国会の動きを検討。12年4月ごろには与野党協議が進んでいたのに、比例代表の定数削減などで対立し法改正が遅れたと指摘した。定数削減などは格差是正に不可欠ではなく「合理的期間内に是正されなかった」として違憲と判断。ただ「事情判決の法理」に基づき、選挙は有効とし請求を棄却した。原告側は即日上告した。

 昨年末の衆院選は09年選挙と同じ区割りで実施された。秋田1区の有権者数は全国最少の高知3区の1.31倍だった。【田原翔一】

 ◇原告側は評価 秋田支部も違憲
 「日本の有史以来、初めて国民主権国家が生まれるきっかけとなる21日間になる」。仙台高裁秋田支部の判決後、秋田県庁で記者会見した原告側の升永(ますなが)英俊弁護士は力強い口調で語り、6日の東京高裁から続いた一連の判決を評価した。

 運動組織「一人一票実現国民会議」を率い、弁護士仲間と各地で訴訟を闘ってきた。山口邦明弁護士のグループの提訴分と合わせ計16件に及んだ今回の訴訟では、戦後初の違憲無効判決など大きな成果を上げた。

 会見に同席した長尾浩行弁護士は「『0増5減』は弥縫(びほう)策(取り繕い)だと指摘する判決も出た。違憲状態をどう(解消)するのか、これから考えるのが本当の問題だ」と、国会にくぎを刺した。

 升永弁護士らは判決直後には裁判所前で、違憲判決を知らせる紙を掲げ「レッドカードを出された選手は退場しなきゃいけないのに、まだピッチを走り回っている」と、小選挙区で当選した衆院議員300人を皮肉った。【田原翔一】


<1票の格差>広島県選管が上告 選挙無効高裁判決に不服

毎日新聞 4月5日(金)20時22分配信

 「1票の格差」を巡り、昨年12月の衆院選を無効と判断した先月25日の広島高裁判決を不服として、広島県選管は5日、最高裁に上告した。判決では広島1、2区について全国初の無効を言い渡した。同高裁は先月26日、別の原告による訴訟で、広島1〜3区について無効請求は棄却したが違憲とする判決を言い渡しており、県選管は週明けにこれについても上告する方針。

 同県選管の橋本宗利委員長は「違憲ではないとした他の高裁判決がある。一高裁の判断だけではなく、司法の最終的な判断を仰ぐ」とコメントした。【中里顕】




 


sss1s3 at 05:14|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2013年04月04日

鍛練棒報告

あたり一面春到来。先の土曜日東谷山フルーツパーラでの枝垂れ桜見学はそれはみごとなものであった。一見の価値あり。
さて鍛練棒の振りは随分とシャープにふりぬけるようになった。いまでは左右の斜め振りと左右の片手振りも練習に取り入れている。

sss1s3 at 14:28|PermalinkComments(0)TrackBack(0)
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